妄想痴漢列車3―トナカイの俺を攫うのは君の役目でしょ?―

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 和樹の家は誰もいなかった。でも、テーブルには二人分の素敵なディナーが用意されている。和樹のお袋さん特製のビーフシチューとパン、真ん中にケーキ。そしてシャンパングラスだ。  そのグラスに、和樹はほんの少し金色かかった飲み物を注ぐ。俺は少し期待していた。 「なぁ、これってさ!」 「シャンメリーだよ」 「ですよね」  本物のわけないっすよね。 「でも、こうしてちゃんとしたグラスで飲むと雰囲気はそれっぽいでしょ?」 「うん」  ランチョンマットの上に丁寧にセッティングされた夕食は、一つも二つも高級に見える、特別な夜のご馳走だった。  「メリークリスマス」に乾杯を切っ掛けに、ご飯を二人で食べる。和樹のお袋さんは料理が上手で、このビーフシチューも絶品だ。 「なんか、お袋さんにも悪い事しちゃったな。わざわざ用意してくれたんだろ?」 「亮二と一緒にクリスマスするって言ったら、張り切ってたよ」 「和樹のお袋って、可愛い所あるよな」  ほんわか日だまりなお袋さんなのです。 「そうでもないさ。何かと口うるさいしな。ちゃんとご飯食べなきゃとか、偏った食事はいけませんとか」 「ちなみにさ、今日はなんの予定だった?」 「適当にチキン買って、ピザとケーキ」 「それもいいけど、やっぱ家庭料理が最高な」  全部好きな物だし学生クリスマスっぽいけれど、俺はこのシチューがとても温かくて最高に感じた。
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