第一章

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第一章

「うーん。カナデ君、どっちだと思う?」  少女と女性のちょうど中間くらいの女の子が、小首を傾げながら二つの服を見せる。 「こっちかな。良子ちゃんの雰囲気に合ってるし」 「ほんと? 変じゃない?」 「変じゃないよ。良子ちゃん白い服多いし、こういうの差し色にしやすいと思うよ」  不安そうな表情だった彼女の手から服を取って、鏡の前で彼女に合わせてみる。 「見てみて。ほら、今の服でも似合ってる。可愛いよ」  鏡越しの自分と対面した彼女は、はっとしてすぐに笑った。 「そっか。ふふ、じゃあこっちにする。買ってくるから待ってて」 「うん。いっておいで」  今年二十歳だっただろうか。どこかのご令嬢らしく、親の金を湯水のように使う。女子校育ちの箱入りだったせいで男に免疫がなく、それを克服しようと俺を雇っている。最近は随分と慣れて、大学に気になる男もいるらしい。 「ふふ、これでデート上手くいきそう。カナデ君に頼んで良かった!」  店を出ると自然と腕を組んで、満足そうに笑う彼女につられて頬が緩む。 「本当? 良かった。可愛いから、その子も絶対ドキドキしちゃうと思うよ」 「ありがとう。……カナデ君は何か欲しいのないの? 今日のお礼したいんだけど」 「俺? ううん、ないよ。良子ちゃんの役に立てて俺も嬉しいから、そういうの気にしなくていいよ」  笑って首を振ると、彼女は少し不満そうに唇を突き出した。 「カナデ君いつもそう言うけど、私だってカナデ君の役に立ちたいよ」 「俺のことは気にしなくていいからさ。良子ちゃんといるだけで楽しいし」 「じゃあ何か欲しいのできたら言ってね」  来週は意中の先輩と初デートのはずだ。それが上手くいったら、きっと彼女は俺と会うことはなくなるだろう。話を聞く限り相手は彼女に好意があるから、デートが上手くいくのは目に見えている。それが分かっているから、俺は笑って頷いた。 「ありがとう」
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