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「私が誕生日を覚えていたのは、仲の良い友達数人と仲屋くんだけよ!」
二人だけの教室に、その声は大きく響く。
「……え?」
思わず漏れた呟きに、篠原さんが「え、って言わないでよ」と怒った。
そして初めて僕に向けていた視線を逸らすと、「帰る」と宣言して背を向け歩き出す。
しかし、咄嗟にどうすることもできずにいる僕から数歩離れたところで、突然立ち止まるとくるりと振り返った。
窓際からはかなり離れて夕日だってそこまでは届いていないはずなのに、その顔は先ほどよりもさらに赤い。
「プレゼント!」
僕に睨むような視線を向けて、突然そう叫んだ。
僕は少しビクッとした後、「何?」と尋ねる。
「ちゃんと何が欲しいか考えておいて。私はわがままだから、あなたの欲しいものをあげるわ。絶対に」
そう言い終えるや否や、篠原さんは教室を出て走り出す。
その瞬間、急に僕の頭は向けられた言葉の意味を理解していった。
『あなたに誕生日プレゼントをあげたかった人もいる』
あれは、篠原さんが優しさから言った言葉だと思っていた。
でも、本当はそうではなくて、ただ単に自分のことを言っていたのだとしたら。
今日かけてくれた言葉はどれも、自分の気持ちを伝えてくれていたのだとしたら。
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