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僕は机の上の学級日誌も放り出して、教室を飛び出していた。
そして廊下に出ると、ちょうど向こうの角を曲がろうとしていたその背中を呼び止める。
「篠原さん!」
弾かれたように立ち止まる。
けれども、振り返ろうとはしなかった。
僕は、それをもどかしく思う。
振り返って欲しい。
こっちを見て欲しい。
だから、僕は言葉を続ける。
「僕、欲しいプレゼント見つけたよ」
さらりとした真っ直ぐな髪を揺らし、振り向く。
これだけ距離があっても、その瞳にある光は陰ることを知らない。
「何?」
ドキドキと鳴る、心臓の音。
欲しいものを欲しいって言うのはわがまま。
やりたいことをやりたいって言うのもわがまま。
だけど、わがままを言わないのもわがままだなんて、言うから。
僕は数年ぶりに、わがままを言ってみることにした。
「今日、一緒に帰ってくれませんか?」
その時、僕は一番欲しかったプレゼントを受け取ったのだと思う。
今日初めて見せてくれたその笑顔は、誕生日よりも、今日をもっと特別な日にしてくれるものだった。
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