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それでも篠原さんは笑わず真剣な瞳を向け続けるから、僕は一つ息を吐いた後、改まって口を開いた。
「僕の母は『わがまま言わないで』って言うのが口癖なんだ。小さい頃から、少しでも母の考えと違うことを言うと、全部わがままって言われる。だから、僕は欲しいものを欲しいって言わなくなったし、やりたいことをやりたいって言わなくなった」
こんなことを他人の話すのは、初めてのようなものだった。
そもそもそれほど親しくも無い人に、個人的な話を一方的にするのはわがままだと思う。
だけど話をやめようと思わなかったのは、篠原さんがきっとそう思うことは無いだろうと思うから。
「そしたらいつの間にか、自分でもよく分からなくなっていた。欲しいものもやりたいことも」
口に出してはならないと分かった時から、僕はその気持ちを自分の中だけに押し込めておくようになった。
でもそれは辛いことだったし悲しいことだったから、出来る限り消してしまうことにしたのだ。
欲しいものもやりたいことも、初めから作らない。
最初は意識的に頑張ってやっていたそういう作業を癖のように自然と行うようになったのは、いつのことだっただろう。
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