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電話
そして筆を執る前にまず、どういう風に死んでやろうということを考えているときに、かつての友人の妻から電話があって、病床の夫があなたに会いたがっていますので、勝手ですが現在の連絡先を調べさせて頂きましたと言う。
俺は友人が結婚したことすら知らなかったので妻と名乗られて驚いたが、彼が重い病気で死の淵にあるということを知って、そういえば時間が空いたら俺から連絡すると言ったままだったので、彼はこれまで連絡して来られなかったのではないかと思い当たった。此度の電話も駆けつけてみると実は俺に会いたがっていたというのは奥方の方便で、夫が化学療法での治療を拒否しているので、自分の代わりに説得してくれる人を探して、夫の昔の知り合いに手当たり次第に電話をかけているらしい。 彼女が友人を深く愛していることは間違えがなかった。
そして俺はあの友人のことだから、適当に自分を好きになってくれる人と、求められるがままに結婚したのだろうと推察した。
しかし、彼と同じ末期患者には通常の処置として行われている投薬治療を強い意志ではねのけるのは、俺が知っている彼らしくなかった。火山が噴火して大地が割れても、彼だけは変わらないと思っていた俺は不思議に思って、彼の入院先を訪れることにした。
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