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五階建ての団地の三階がオレんち。
家の鍵を開けると、小さな玄関から、2Kのオレの家、すべての部屋が見わたせた。
手前が三畳ほどのせまい台所で、その奥にならんで部屋がふたつ。
部屋はしんと冷え込んでいて、うす闇に染まっている。
「ただいま~」
声をかけると、左の四畳半の部屋に敷かれたふとんが、もそりと動いた。
「ああ……誠、おかえり。おじいちゃんちは楽しかった?」
お母さんが、むっくり体を持ちあげる。
いつもは後ろでひとつにむすんでいる髪は、今は寝癖がついてぼうぼう。白くこけたほお。目の下にはクマが二重になってできている。
「お母さん、寝てて。寝てて。正月も夜勤だったんでしょ?」
「そうなのよ。七時になったら、また家を出るから。夕飯は、なべのおでんをあっためて食べてくれる?」
「りょうか~い!」
へら~と笑いながら、オレはスニーカーをぬぎ捨てた。
――家事も育児もろくにしない――
とうちゃんの声が、耳の奥によみがえってくる。
ヤだな……。
じいちゃんちから帰ってくるといつも、こんな気分になる。
胸がモヤっとして、うすよごれた捨て犬になった気分。
ふだんは、ぜんぜん気にならない、あたりまえのことなんだけど。
台所に立って、なべのおでんをあたため直して、オレはお皿に盛りつけた。
「お母さ~ん、ついでにお母さんもおでん、食べちゃう~?」
なるべく大きな声で、にっかり笑って。
家の中を明るくするのは、オレの仕事だから。
「……そうね。そろそろ起きる時間だし、そうするわ」
ふとんをたたんで、お母さんがうすく笑った。
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