悪はだれだ?

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「――そう。おばあちゃんに三枚も服を買ってもらったの。お父さんにはお年玉を五万円?」 「だよだよ~! おかげでお年玉で、超高級品ゲーム機買えちゃった!!」 「じゃ、じゃ、じゃ~ん!!」と、買ったばかりの携帯ゲーム機本体をかかげて見せる。液晶パネルの左右にエメラルドグリーンと赤のコントローラーがついている。  高すぎて、お金持ちの持ち物だから、自分の手で持つことはないと、あきらめていたのに。 「よかったわね。あとで、電話してお礼言わなくちゃね」  味のしみたタマゴを箸で割って。「う~ん」と考えて。  オレは、口を開いた。 「ねぇ、お母さん。お母さんってさ、なんでとうちゃんと別れたの?」 「……え?」 「だってさ。基本の『き』なんだけど。オレ、今までくわしくきいてなかったもん。お母さん、いつも『人とのつきあいは対等じゃなきゃダメ』って言うけど、それがなにか関係してるの?」 「……そうね」  お母さんは窓に目を向けた。  モスグリーンのカーテンが窓をおおっている。外は真っ暗。石油ヒーターの音がやわらかく、小さな部屋を包む。 「あの人と別れたのは、誠が四つのときだったわね」 「うん。オレが幼稚園の年中さんのとき。ある日とつぜん、とうちゃんと暮らしてた家を出てさ~。すぐそばのアパートに引っ越したんだよ。で、お母さんが働きに出るようになって。オレは保育園にかわったの。ねぇ、オレ、すごくない? 小さいころのこと、わりとしっかり覚えてるでしょ?」 「そうね。よく覚えてるわね。じゃあ……これも覚えてる? 家を出た日に、お父さんが暴れたこと」 「……あれ? そうだったっけ?」  オレはこたつの上に身をのりだしたまま、まばたきした。
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