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 多くの人々が前を横切り去って行くように、あなたもいつものように横切り去っていくものだと思っていた。  でも、今日は違ったんだ。  人の波間で歩みを進めるあなたと、ふと目が合った。あなたはその足を止めて、向きをかえゆっくりと近づいて来てくれた。そして僕のそばで少し腰をかがめ、微笑んで僕の鼻先を長くしなやかな指でちょんと突いた。  呆然としているとスッと伸びてきたあなたの手が、僕を掴んだ。  沢山の仲間たちの中で一番貧相で未熟な僕を、あなたは選んでくれた。  不思議だった。どうして? 他にもあなたが手にすべき魅力を十分に兼ね備えた仲間たちは大勢いたはずでしょ?   そんな疑問もあったけど、何よりこんな僕を選んでくれた事実が凄く嬉しかった。  いぶかしげに僕を見送る仲間たち。ほんとうならピースサインでもして「お先」なんて鼻高々かに、余裕の表情をお見舞いしてやればよかった。ううん。あかんべーでも食らわせてやってもよかったくらいだ。だけど、僕の視界にはあなたしか映ってなかった。  ただ、もじもじと顔を赤らめ、あなたを見上げるばかりだった。  店から出て初めて歩いた夜道。キンと冷たい澄んだ空気。でも高揚感に満ちた僕には丁度心地いいくらい。  星がチラチラと顔を出し始めている濃い藍色の空を背景に、あなたは優しく僕に微笑んでくれた。僕にだ。嬉しくて、嬉しくて、嬉しすぎて慌てて視線を前に向けてしまった。本当はあなたの優しい笑顔を見つめていたいのに。ドキドキドキと弾む心臓を宥めながら真っ直ぐ前を見続けた。
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