澄んだ青

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澄んだ青

「田渕じゃないか?」 「あれ、先生じゃん。」 母の見舞いから帰る時で、まさに偶然。「ばったり」であった。 高校を卒業して暫く。野球大好きの問題児だったことが懐かしい記憶に変わり始める頃。 そんな彼にはまったく似合わない所。ここは、総合病院だ。 教師陣は皆彼等に振り回され、頭を抱えては見守っていたのだ。可愛いとは言い難い教え子との再会に、つい顔が綻ぶ。 きっと、以前のように大騒ぎをして怪我を負った友人か何かだろうと見当をつけて、見舞いかと尋ねる。 「そんなとこっす。」 彼は柔らかく、へらっと笑った。 体感よりも長い時を経て見た姿は、記憶よりも線が細くなったようだった。 まぁ、高校の思春期に比べて体格が変わるのは良くあること。 「少し痩せたか?」 「トレーニングさぼってるんで。」 「野球は?」 「草野球やってます。」 「変わらず散髪屋の後を継ぐのか?」 「まぁ、はい。」 またいつかどこかで。 そんな風に、次があると疑いもしなかった。 軽く世間話をした去り際に、天を仰いだ彼はこう言っていた。 「なぁ先生。俺たぶん後悔しねぇよ。次会うときもたぶん、そうだな。青だといいな。」 あの時、何故か追求を躊躇ったまま今日を迎えた。 いつも通りだと流さずに、次があるという慢心を払ってでも、もっと話を聞いてやれば良かったのだ。 あの時から日は過ぎ去り、約一年。 彼は満天の青に溶けていった。
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