1話

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目を覚ますと、視界には薄暗い部屋の天井が映る。ゆったりと布団から身体を起こし、外から降る月光を受けてぼんやりとした明るさを放つ障子見て、夜だということに気付く。昼寝のつもりが大分寝過ぎたようだ。青年ーーアキは布団から抜け出し立ち上がって乱れた浴衣を軽く直すと、静かに障子を開けた。 廊下を挟んで目の前に作られた庭に咲き乱れる紅色の椿は、ちょうど一年前に贈り物としてここに植えられたもので、アキは落ちるときさえも美しさを失わないその散り際が好きで、たまに世話をする程には気に入っている景色だった。 そこに春の暖かい夜風がそよぎ、花が揺れる。ふわりと控えめに良い香りが鼻腔を擽ったが、それは目の前にある花のものではない。 「おはよう、ハル。」 アキは、ゆったりとした動作で後ろを振り向きながら、少し離れた所で立ち止まりこちらを眺めていた青年に声をかける。ハルと呼ばれた青年は、近くの柱に肩で軽く凭れるような格好でアキを見つめていた。
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