1話

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暗闇に沈んでいた意識が眩しさを感じて浮上する。暖かい体温を感じてアキは瞼を開いて、それの正体を確認すれば、静かに寝息を立てるハルの顔が映る。 「……ほんと、憎たらしいね。」 思わず言葉が漏れる。短い黒髪に、スッと通った鼻筋。動揺を見せない切れ長な瞳の奥には冷たさがあって、180を超えるしなやかな体躯を持つハルは誰がどう見ても美男だろう容姿で、同じ男のアキからすれば羨ましいことこの上ない。 「ん…、誰が憎いって?」 眠りが浅かったのか、小さく零した言葉は聞かれていたらしい。目を覚ましたハルは、アキの頬を撫でながらもう一度言ってみろといった雰囲気で問いかける。 「俺もハルみたいな容姿になりたいってことだよ。」 「やめとけ。アキはそのままでいい。」 反対を示す言葉が出るのは早かった。その様子を見て、普段は低血圧で機嫌の悪い相手の頭がしっかり働いているのを確認すれば、アキはゆっくりと上半身を起こして乱れた浴衣の衿を整える。 閉められている障子を挟んだ目の前の廊下で酷使した腰は気怠さと痛みを残しているが、こうして身体を起こすくらいなら大丈夫そうだ。勿論、立てるわけはないのだが。
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