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「贈り物は素直に戴くのもこの国の礼儀だ」
ザイードはそう言って女店主に礼を言う。
「じゃあ、また顔を出す」
背を向けたザイードに慌てながら愛美は女店主を振り返った。
「あ、アリガトウ!」
焦りすぎて思わず日本語に戻ってしまう。
意味が解らず首を傾げた女店主の手を取って、愛美は付け加えた。
「あ、あのっ…あたしの母に贈る物を今度買いにきます!」
少し早口になってそう口にした愛美に女店主は何度も頷き返す。
そして、振り返って愛美を待つザイードに女店主は笑みを浮かべ、拝むように手を合わせていた。
次世代を継ぐ王に否応なしに期待が膨らむ。
国は少しずつ、確実にいい方向へと進みつつある。
国を背負う若い二人の背中を見つめ、そこにいる民の皆が希望を持つ。
神は民に我慢も強いれど、その見返りをしっかり返してくれるものだと──
それは何年後、何十年と先かも知れぬ──
だが人々はそうやって希望を持って生きてきた。
人としての短い生涯を費やしながら、次のこの王は一体何を成し遂げていくのだろうか──
いや、一体どれだけの事を成し遂げていけるのだろうか──
それは誰にもわからない。
だが、期待だけが溢れてしょうがない。
それはこの国を神々しく照らす陽のように……
民の心を明るく照らし、希望を持たせてくれる。
次の王は、ただそこに居るだけでも苦しさを忘れさせてくれる太陽そのものの輝きを持っていた──
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