185人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
「やはり……行くのはよそう…」
「いやよ。行くって決めたんだから」
「逢っても良い話は何一つ聞けんはずだ…っ…」
「それはあなたにとって……ってことでしょ?」
「──…っ…」
「…あ、これがお母様の好きな柄ね。じゃあ包んでください!」
「マナミっ…」
「止めてもだめよ。行くって決めたら一人でも逢いに行くから」
肩に乗ったザイードの手を払い、愛美は気の毒そうに笑う女店主に品物を包んで貰う。
ザイードはそんな愛美の後ろ姿を見つめた。
腹に一人味方を宿しているせいだろうか──
今日の愛美はとても強気な姿勢を見せる。
一言も言い返せなくなったザイードを眺め、女店主は何故か微笑まし気にその二人を見守る。
今のこの二人のやり取りを見ていると、若い時の国王夫妻を思い出す。
王妃よりも気性は大人しいけれど、この妃は芯の強さをしっかりと内に秘めている。
女店主は紙袋に注文以外の品物も詰めて愛美にはいっ!と差し出した。
「お代はよろしいですわ」
「えっ!?だめよそんなの」
「ええ、私からの婚礼祝いと思ってくだされば」
「でもっ…あ!…」
遠慮深く拒む愛美の背後からすっと手が伸びていた。
最初のコメントを投稿しよう!