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「宗太くん。あんた、ここに来ることを睦美ちゃんに言ってきたんだろうね」
「…ごめんなさい。言ってないです」
途端にガツンと睨まれる。
睦美ちゃんとは、伯父の奥さんであり、康史くんの母親であり、土岐に住まう現在の宗太の保護者だ。
「黙って来たって、一体どういうつもりなの」
地鳴りのように声を低く響かせながら、伯母は真っ直ぐ私に視線を突き刺してくる。
「申し訳ありません」
「そんなこと、聞いとらんでしょう。理由を聞いとるんやわ」
さすがの宗太も伯母の怒りを察知し、オロオロしながら口を挟んだ。
「でも伯母さん、ここに行くわって言ったら行かせてくれんでしょ」
「そりゃそーやわ。
だからって、黙って来て良いんかね」
「…良くないです」
「そんな卑怯な真似、してかんわ」
「ハイ」
「で? 結ちゃん、あんた、弟にここまで庇ってもらって何も言わんのかね」
あんたの口から語る言葉はないんか、と、伯母は容赦なく迫ってくる。
激しく怖い。
ただそれ以上に、悔しい。
「…どうしてるかな、って、気になって」
一言。
ポロリとこぼれ落ちた。
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