第十三章

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 結局、その後二日寝込んだ俺が体調を復活したころには、ちょうどヴァレンタインの時期で、サノっちはねねちゃんから、土方はやっぱり例の彼女からチョコを貰ったらしい。  驚くことに、新ちゃんもゆりかちゃんからお礼のチョコをもらって、代わりにデートに誘ってOKを貰ったらしい。めっちゃ浮かれている新ちゃんを見ながら……あっという間に食べられないといいけど……新ちゃんが。とか、冗談で思ってみたりしたけど……ね。  まあ、何にせよ新ちゃんはいい奴だから、あんまりややこしいことにならないことを祈ってる。  そう言えば、何でゆりかちゃんが学校に居たのがばれたのかと言うと、ゆりかちゃんの事を心配してくれてメールをずっと送ってきてくれた友達がいて、前仲良くしてた男の子が助けてくれてる。ってメールしたら、以前その子に、俺の学校名と名前を話したことがあって、そこからその子が当てをつけたらしい。  で、男が勝手に俺を割り出して、それで寮の近くで見張っていた、と言う事だったみたい。結局、友達もその男にだまされていて、会社の大事な書類を盗まれたって言われて、そのまま信じ込んでいたんだって。  私より男を信じちゃったんだよね。ゆりかちゃんが悲しそうにそう言ってた。ゆりかちゃんは数日ぶりにあったら、なんだか、すっかり落ち着いていて、でも別れる直前。 「……最後に一回、慶君としたかったな。私、マジで慶君のこと、好きだったから」  以前みたいに色っぽい声で、くすりと冗談めかして笑って、俺の手にチョコレートを一つ置いた。そしてそのセリフは本当だか嘘だかわからないまま、手を振って帰って行ってしまった。  ちなみに、アキにその光景をガッツリ見られてて、記憶力のいいアキの事だから、春にちらっと一瞬会っただけの彼女の事もすっかり覚えていて、冷たい視線と共に。 「まだ、なかよぉしてたんや………」  と嫌みっぽく言われて、 「いや、偶然会っただけだって」  と咄嗟に言ったものの、俺の手にはチョコレートがあったりして、全然信憑性が無い。  ついでに、なんかマユちゃんの学校の子とか、良くわからない子たちからも寮にチョコが届いてて、なんか結果として俺宛のチョコは二桁を軽く超えていた。  とりあえず食べきれないから、アキにも一緒に食べないか勧めたら、すごくすごく嫌そうな顔をされた。 「俺、甘いの好きちゃうし……慶のこと、好きで贈ってきたんやろから、全部一人で食べたらええやん……まあ、クラブも休みやし、プクプクに太らはったらええわ……」  なんだか妙に不機嫌そうにそう言うと、部屋を出て行ってしまった。  正直、なんでアキがそんなに不機嫌なのかよくわからない。でも気づいたら、いつも通りのアキになんだか戻っていたような気がして、ちょっとホッとしたのは事実だ。  その後俺は仕方なく、友達に分けたり、一人でちょっとずつチョコを食べたんだけど、結局、チョコが全部無くなるまで、数日間、アキはずっと不機嫌なままだった。
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