第十三章

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 そんな話をしてから、しばらくして学校は期末試験が始まり、三月の頭には既に試験休みが始まった。  どうやら、アキの父親は今京都に戻ってきてて、それで綾乃さんとの離婚話を進めているらしい。ちょくちょく父親から電話がかかってきて、アキはげんなりしている。 「二言目には、京都に戻ってこい、ばっかりいわはるわ……」  ため息をついて、珍しく愚痴を言う。 「結局あの人も、プライド高い人やから、綾乃はんから言い出されたのに納得いってへんのかな………」  彼の言葉にふと気になって、アキに尋ねてみる。 「ねえ、アキ、あのさ………」  言いにくい話で言葉に詰まると、 「なんや、さっさと言ってまい?」  アキはそんな俺を見通しているかのように、くすりと笑う。 「あのさ、綾乃さんの事なんだけど………」  俺の言葉に、彼はふわりと柔らかい笑みを浮かべた。 「………ええよ、聞きたいこと、なんでも聞いて………」  その言葉に俺は、少しだけ唇を噛みしめて、ゆっくりと尋ねる。 「アキのこと、恋人の男の人みたいに……してたってことだよね?」  アキは多分、ある程度の年から、綾乃さんにそう言う事をされていたんだと思う。男の人が、女の人にするみたいなこと。多分、彼女に教えられて……。  俺の言葉にふぅっとアキがため息をつく。 「……そうや、あの人、そうせんと、多分おかしなってたんやと思う………」 「………そう言うのって恨んでないの?」  尋ねるとアキは小さな声で呟いた。 「わからへんけど、あの家では、俺もあの人も、うちの親父の犠牲者みたいなもんやったから………」  お互い犠牲者だったって、だから許してしまっていたんだろうかって。そんな風に思う。 「そか、じゃあ、アキは、綾乃さんが離婚して、別の人と、もしかして幸せになるのは、悪くないってそんな風に思ってるの?」  そう尋ねると、小さく笑って、そうやなあ……。と答える。 「あの人の事、好きやないけど、可哀想な人とは思っておるわ……あの親父の犠牲になってもうたんやなって……だから、まあ、幸せになってくれたらええ、そう思うわ……」  そう言って、アキは妙に儚げにふわりと笑った。  でも俺はその時、アキが何を考えていたかなんて、全然わかってなくて。  誰がアキを一番苦しめていたかなんて、全然わかってなくて……。  それだったらアキも家に帰っても、綾乃さんにされたくもない事、されなくなるし、それでもいいかと、そんな風に気楽に思っていただけだった。
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