第十三章

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 そんな話をしてからしばらくして、このところ穏やかで、落ち着いていたはずのアキの様子が少しずつおかしくなっていく。  徐々に精神的に不安定になり、あのアキが勉強にも集中できてない様な状態で、前にもまして態度が冷たくて、俺に話も全然してくれなくなっていった。  気づくと数週間で、出会った頃の彼みたいな冷たい雰囲気をまとった状態に、戻ってしまったような気がする。  まわりの空気がピンと張り詰めているっていうか、なんていうのかわからないのだけど、常に緊張している感じがして、何が彼をそんな風にさせているのか聞きたくても、冷たく無視されるし、取り付く島もない、と言う感じになってしまっていた。  とは言え、クラスでは一応表面上は挨拶もするし普通にしているから、きっと、俺と彼の間でしかその緊張感っていうのはわかってもらえないと思うのだけど。  親の事で複雑な状況だし、色々ピリピリしているみたいだし、俺にも話したくないこともあるかもしれないし。  今までも一時的に機嫌が悪くて、言葉が少なくなることもないわけでもなかったから、今回もまたしばらくしたら元に戻るだろうと思っていた。  だから俺もホワイトデーに、もらったチョコのお礼を配りに行ったり、部活に出たり、忙しくしてた。  当然、アキのことはすごく気になっているけど、毎日顔は見てるし、まあ、今までに作ってきた関係もあるから、だから、きっと大丈夫かなって、そんな根拠の無い自信を持って、物事を甘く考えていたんだ。  それどころか、自分の整理することの出来ないアキへの感情を、少し距離のある今の間に、色々確認したり考えたいって思っていた。  それに何だか知らないけど、しょっちゅう誰かと電話してて、電話口から漏れ聞こえる声は、女の子の声で。  彼女ができたとか、そんな単純なことは思ってないけど、こそこそと話している感じが、なんかすごく引っかかる感じがして、そのことに少しヤキモチを焼いていたのかもしれない。  そういえば、一度マユちゃんと一緒にヴァレンタインデーのお返しのお菓子を買いに行くのに付き合ってもらった時、駅前の喫茶店でアキが女の子と二人っきりで話をしていたのを見かけた。  マユちゃんは、あの子誰? って聞いたけど、俺は全然その子の事を知らなくて……。一緒に居た女の子にっていうより、俺の知らない、アキの姿が、何だか凄くショックで……。  それもちょっと面白くなくて、だから余計、アキの普段とちょっと違う様子に、わざと気づかないふりをしてたのかもしれない。  そんな自分勝手な態度が、後々アキを追い詰めることになるなんて、その時は全く思っていなかった……。  そして、そんな自分勝手な自分に、死ぬほど後悔する日が来るなんて思ってその時は、全然気づいていなかったのだ。
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