第十三章

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 試験休みの間、俺は一応部活があって、冷たい空気をまとったままのアキと同じ部屋にいるのも、なんだかしんどくて、部活をいいことに毎日出かけていた。  アキは、いつも通り図書館に出かけて行ったり、部屋で静かに勉強していたり……。あまり会話することもなくて、それでも、どこかずっと気になっていた。  その均衡が壊れたのは、ほんの些細なことがきっかけだった。  その日、部活のミーティングの予定があって、その後、マユちゃんから彼女の練習試合を見に来ないかと誘われていたから、制服に着替えて学校から直接そっちに行く予定にしていた。 「マユちゃんの部活の練習試合、一緒に見に行かねえ?」って普段ならそう声だけは掛けるのに、なんか体調が悪そうで、それに機嫌も悪そうで、声が掛けにくくて、そのままそっと出かけようとしたら、一瞬アキと視線がぶつかった。 「……毎日遊んでばっかやけど、阿呆の慶がそれでええの?」  ポツリ、と言った言葉がなんか引っかかって。 「アキみたいに勉強ばっかりしてても、面白く無いからね!」  思わず言い返す。 「学生の本分は学業やろ?」 「俺はお前みたいに頭良くないからね」  こうやって地元から離れて居るためには、その抜群の学業成績を落すわけに行かないって、俺は知っていたのに。 「……慶はほんま、何も考えてへんと楽そうでええね」  嫌味たっぷりに言われた言葉に、 「何考えているんかしらんけど、勝手にアキがアレコレ考えて過ぎているだけじゃねえの?」  思わずそう言い返してしまった。  一瞬色白の肌をカッと火照らせて、アキが何かを言いかけた瞬間に、アキの携帯電話がなる。それを見て、アキの表情が酷く曇った。  それがすごくすごく気になったのに、アキが怒ったような顔をしながら、携帯電話を持って外に出て行くのを見送って、瞬間俺の方にも、サノっちからメールが入る。 「やべ、遅刻するわ………」  思わず独り言を言って、向こうで深刻そうな顔をして電話するアキに、ものすごく後ろ髪を引かれながらも、それでも「どうしたの」とか「大丈夫?」とか、そういう言葉を掛ける余裕もなくて。  アキの背中も、そんな余地も見せてくれてないような気がして、俺はそのまま気にしてないふりをして、寮を出て行った。
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