第十三章

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 マユちゃんの部活はバスケで、意外に女の子のマユちゃんファンが多くて、びっくりしながらも、応援をする。身長の高い彼女の活躍で、試合の方の展開は、彼女のチームに有利に進んでいた。 「なんか、普段の感じとちょっと違うよな」  思わず俺がそんなふうに言うと、 「普段はマユちゃん、単なる腐女子だから」  そう言って、ねねちゃんが笑う。 「部活やっているときは、熱血バスケ少女だけど」  ゴールを決めたマユちゃんに、場内で歓声が上がる。 「でも、普段は完全に腐ってるから」  手を叩きながらねねちゃんが、腐女子腐女子と楽しそうに繰り返す。そして俺の方を見てクスッと笑った。 「だから、普通の恋愛にはあんまり興味が無いっぽいんだよね?」 「腐女子?」  思わず俺が聞き返す。 「うん、マユちゃんカナリきてるよ」  そう言って、マユちゃんがハマっているという、俺が知らないようなマンガのタイトルやら、アニメのタイトルやらをサノっちが言う。 「さすがにココらへんになってくると、俺も見たこと無いんだけどさ?」  まあ、サノっちは、情報通っていうか、何でもよく知っている方だけど、それでもタイトルぐらいしか知らない世界だ、と言うから……なんとなく話を聞いてて、俺とアキの話にテンションが上がるマユちゃんの正体がわかった気がした……。  試合が終わって、俺達が食事をしていると、ねねちゃんの携帯にメールが届く。それは部活のミーティングが終わって合流するというマユちゃんからのメールで。  マユちゃんが合流してしばらくして、サノっち達と一緒に街をふらつく。相変わらずラブラブな二人を見つつ、 「マユちゃんって、腐女子なん?」  って尋ねると、彼女はショートカットの髪を揺らす。 「そうそう、かなり腐ってる」  バレタか、そう言って笑う。 「慶くんと、アキくんのCPが萌えるんだよね」  そう言われて、思わず絶句してしまった。 「……で。今日はアキくん、どうしてるの?」  話を聞き出すのがうまいマユちゃんのせいで、なんとなく最近、仲良くできてない話をすると、こないだアキと一緒にいるのを見かけた女の子の話を思い出したのか、眉を寄せた。 「……もしかしてアキくんに彼女できたのかな?」 そう言って、多分違うと思うよ、と不機嫌そうに答える俺を見て笑う。 「ねえ、アキくん、大丈夫なのかな?」  ふと、真面目な顔で彼女が尋ねる。 「え?」   「なんか、親との関係難しそうなこと言ってたよね? 実家に帰りたくないとか……それに、実家のご両親、上手く行ってないんでしょ?」  アキの家で、離婚話が出ていると言う話は、マユちゃんも知っているから、うなづく。 「やっぱり、色々心配事多くて、それでイライラしたりして、つい仲いい慶くんに当たったりしてるんじゃない?」 ふとそう言われると、そんな気もしてきて……。今朝方のアキの様子がすごく気になってきた。 「朝、アキの様子がおかしかったんだよね………」 「一度携帯鳴らしてみたら?」  アキくん、体も割と弱そうな印象だし、精神的に参っちゃってないといいけど……。元気なら呼び出して、一緒に気晴らししようって誘ったっていいじゃん。  そうマユちゃんが言うから、俺が携帯を鳴らすと、数コールして留守番電話につながった。  一度切ってから、もう一度掛け直すと、今度はいきなり最初から、留守番電話につながってしまう。なんか、瞬間、別れ際のアキのしんどそうな表情が脳裏をかすめる。……なんか、すごく嫌な予感がした。 「マユちゃん、わりぃ、俺、体調悪いかも」  そんなイイワケにもならないことを言って、次の瞬間、翻す。 「また今度!」  一瞬振り向いたら、マユちゃんがびっくりした表情のまま、こっちを見つめている。それにとっさに手を振って、俺は寮に向かって駆け出していた。
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