第十三章

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 新幹線に飛び乗ると、イライラと時間を過ごす。  合間合間に、何度かアキの携帯を鳴らすけど、やっぱり電話がつながらなくて、アキの実家の番号にも掛けてみるけど、やっぱり駄目だった。  不安はより一層高まる。  普通に実家に帰って、話し合いをしているとか、なんかそういうことなら、実家の電話ぐらい取るだろうと思う。まあ、出かけている可能性も皆無じゃないとは思うけど、なんか、嫌な予感は消えなくて……。  俺はあの家に戻りたくないっていうアキの事を、あの継母が原因だって勝手に思っていた。でも、あの不自然な家の中を思い出す。  既に亡くなっているアキの母親が未だにいるみたいな家。その家の今の妻ではなくて、亡くなった妻の存在が濃厚な家。  そして穏やかでまっとうそうに見えたけど、アキのお母さんの話になると、どこかおかしかったアキの父親。アキを恋人のように、抱く継母。あの父親は、綾乃さんのことをちゃんと妻として抱いていたんだろうか?  大人の男女の関係なんて俺にはよくわからないけど、あの父親はきっと、アキの母親以外の女性は受け入れられないような気がする。どこか必死で、どこか不安定で。芸術家らしいといえば、芸術家らしいのかもしれないけど……。  そんな歪んだ家の中から、ようやく逃げ出した、アキの継母。  すぐ、離婚が成立すると思ったのに、結局数ヶ月、離婚が成立するのに時間がかかってて、継母からそのことを、ずっと相談されていたアキ。  それから、この間喫茶店に一緒に居た大人っぽい女性。ふと、その女性が綾乃さんの身内だったのではないかと気づく。そう思って思い出してみると、誰かに似てるって一瞬思ったその女性が、綾乃さんに似ていたことに今更気づいた。  アキのまわりに今何が起きているのか、そのことの推察もできないくらい、最近は話ができていない。だから、今アキが何を思っているか、何を考えているか、わからないけど……。  カチリ、2つの鍵を手のひらで擦り合わせる。  これ、アキのメッセージのような気がする。なんか、この鍵が俺を京都に呼んでいる気がする。  この鍵で、自分を救い出して欲しいって、そんな風に伝えたがっている気がするのは、俺の気のせいだろうか?  例え気のせいで、アキに馬鹿にされたっていい。  アキが笑って俺を見てくれたらそれでいい。  それを確認しに、俺はアキのところまで行くんだって、そんな風に思っていた。
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