第十四章

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 ゆっくりと時間を掛けて、アキの嗚咽は静かにやんでいき、徐々に涙も零れ落ちなくなり、新幹線が静岡県を抜ける頃には、ようやく呼吸も元に戻っていた。  疲れ果てたのか、現実を逃避するためなのか、気づくと意識を落すようにアキは小さく寝息を漏らし始めていた。  俺の肩先に今は安心しきったように頭を持たれ掛けさせて、先ほどまでとは違うわずかに穏やかなそんな表情を見て、俺はようやっとアキを取り戻せたような気がして、心底からほっとしていた。  それから一時間ほどで新幹線は東京に着き、二人で電車を降りようとした時に、車掌さんと一緒に来た警察の制服を着た男の人に声を掛けられた。 「君、どこの子? 高校生? その子はどこから来たの? ………ちょっと詳しい話を聞かせてもらえないかな?」  俺達は何とも答えようが無くて、互いに顔を見合わせて、そのまま、駅構内の鉄道警察の交番に連れて行かれた。 「で、どこの高校? 親の連絡先は?」  そう矢継ぎ早に尋ねられて、しまった、と気づいた。  アキはどうみても目立つ格好だし、それに対して、俺は普通に学校の制服だし。一歩間違えたら、見合い中の女の子を攫って、駆け落ちしているぐらいに見えるかも?  しかも俺は胴着も持ってないくせに、竹刀だけ持っているし。どう見ても不自然な組み合わせに、不自然な所持物だ。  ……そういや、アキの親父さん、倒れたまま置いてきちゃった。もしアキの方の親に連絡取るとか言われたら、めちゃくちゃ面倒な事になる。  間違いなく、俺は傷害罪で訴えられる状況ではあるし……。俺のことはまあ、どうとでもなるけど、この状況でアキがまた父親のもとに連れ去られてしまったら……。  そう思うと、さすがに状況の悪さに吐き気がしてくる。一つ深呼吸をして、これからどうするべきか頭を巡らせる。その時、親父から言われていたことを思い出した。 「すみません。失礼ですが、そちらの方の所属と階級と、お名前をお伺いできますか?」  そう尋ねた声は、思ったより冷静な声音に思えた。そのことに少しだけ自信を取り戻して、言葉を続ける。 「それから、親は今国内には居ないかもしれないので、自宅に家令が居るので、そちらに連絡してください。後、親が国内不在の場合は、父の会社の顧問弁護士を呼ぶように、父に言われているので、連絡させて頂いてもいいですか? ……弁護士が同席するまでは、何もお答えできません」  子供の頃、父親に万が一警察に捕まった時には、そう対応するようにと、言われたその通りの対応をすると、向こうの態度が一度に変わる。  眉をしかめながら、俺に向かって所属と階級と名前を答えると、警官は不機嫌そうに、俺の言った話を上司に確認しに向かう。
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