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「………藍谷 彩や……」
そういや、主席は京都から来た奴だって誰かが噂してた。微妙に関東のイントネーションじゃない言葉で返してくる。漆黒の瞳に、漆黒の髪。 真っ白な肌に、きゃしゃな体。 女だったら間違いなく『美人』って思えるような風貌。 なのに挨拶した時に上げた俺の手を確認すると、彼は眉を寄せた。 気のせいかその目が……非常に不機嫌そうだ。
「これから三年間同じ部屋だし、よろしく!」
ひるみつつも、ここは大事なところだと、気合で全開笑顔をアピールしながら手を差し出す俺の顔を一瞥して。
「別に仲良くしてくれへんでもええよ。……勉強の邪魔さえせえへんかったら、な」
かわいらしく見える瞳を細めて、彼はそう冷たく言い放った。
京の人間は冷たくて他人行儀だ。
そう聞いたことはあったけど、それを地で行くような奴だった。三年間『地獄行き』が決定したような気がした。言葉遣いだけは丁寧。慇懃無礼。
そんな感じの対応で皆が騒いでいるときも、けして混じってはこない。教室の片隅で、静かに本を読んでいるか、ふっと消えて図書館あたりをフラフラしているらしい。
一人で行動が常の奴とは違って、俺には小学校時代からの友人がたくさんいる。まあ、同じ学校に9年も通っていたら、上も下も、同級生も知り合いだらけだ。ちなみに俺の成績ときたら、ギリギリ内部推薦が取れるだけの成績で、当然、高校入学組とは比較にもならない。それで、アイツにも馬鹿にされてああいう態度なのかと思っていたんだけど。
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