第一章

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 俺は朝の最初の授業が自習になったのをいいことに教室を抜け出し、こっそり屋上にあがる。外階段から上がると、鍵はかかっているけど、簡単にフェンスを乗り越えることが出来た。    屋上の上には端の目立たないところに、さらに小さな梯子がついていて、それを上がると、二畳ほどの小さなスペースがあって、ソコは俺のお気に入りの場所だ。寝転がると上には空しか見えない。俺はほっと溜息をついて、そこでくしゃくしゃになった、紙を開いてみる。  一抹の不安とドキドキ感。人のものを盗み見る背徳感。  ないまぜになったまま開くと、ソコには角ばった文字。男っぽい言葉でつづられた…………これはラブレター? アイツが誰かに書いたのか? そう一瞬思った。けど、内容が違う。  これは、アイツへのラブレターだ。差し出し主は……最後に書かれていた名前を見て俺は悟った。多分三年の先輩だ。名前だけは知っている。俺と同じように、下から持ち上がってきている奴だ。  ふと俺は新ちゃんと、サノっちの言葉を思い出す。 「男でもうっかりやっちゃいそう」  男でも……男が好きって……そう言う奴がいるんだ。  何だか、あまりに違和感がありすぎて、背筋が怯えでゾクリとした。本当に見ては行けないものを見たような気がして、慌てて、アイツがそうしたように、グシャリと丸める。気持ち悪くてどこかに捨てたいけれど、ここに置き去りにするわけにもいかず、乱暴に元入れていたポケットに入れて視界から消すと、小さく頭を左右に振る。 「見なかったことにしようっと」  そうポツリと呟いて。しばらく、空を見つめてぼおっとしていた。  ……あの子、どうしているかな?   ふと思い出す。偶然街で出会った一つ年上の女の子。何だか知らないけど、俺を気に入って、そのままホテルに俺を連れ込んだ。まあ、色々楽しいことを教えてくれたわけだけど。  好きだとか、恋だとか、そんな感情があるわけじゃなくて、まあ、さほど気に入っているわけでもない。でも、こんな怪しい世界から一刻も離れたくて、ごく普通の世界に戻って来たくて。 「後でメールしてみようか?」  そう思いついて、そっちに無理やり思考を傾けた。
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