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「…………あ……」
目の前に、奴がいた。
「あんたか……」
薄く笑う。
「本屋におることもあんねんな…………」
固まっている俺に視線もよこさず、そう言って、さっと本を先に拾われた。
「慶くん、ごめんねえ」
次の瞬間、腕に絡む指先を感じる。それを奴は冷たく一瞥して。
「勉強する暇はなくても、女の子と遊んでる暇はあるんやな」
一言言うと、アイツはカウンターに参考書を置く。冷えた空気を感じ取ってか、彼女が一瞬、俺の腕を引いた。でも彼はそちらを見ることもなく本を買い、他には何も言わずに、その場から立ち去る。
「なぁに~? アレ」
奴の背中を見送りながら、彼女が顔をしかめて言う。
「…………でも、ちょっとカッコいい子だね。カワイイ系っていうか」
彼女の顔が、ちょっと肉食系で、そう言う意味で興味を持っているのが伝わってくるから、ちょっと、むっとする。
女の子とエッチな事目的で遊んでいる自分が、酷くバカなことをしている気になって。
「……アイツ、俺の同室の奴。……わりぃ、俺アイツに用事あったんだわ」
そう言うと俺は、腕にかけられている指先をそっとはずす。
「呼び出しといて悪いけど、また今度」
彼女を店に置き去りにして、走って後を追う。
追って、どうすんだよ? そう胸の内側で呟きながら。
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