第一章

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「…………あ……」  目の前に、奴がいた。 「あんたか……」  薄く笑う。 「本屋におることもあんねんな…………」  固まっている俺に視線もよこさず、そう言って、さっと本を先に拾われた。 「慶くん、ごめんねえ」  次の瞬間、腕に絡む指先を感じる。それを奴は冷たく一瞥して。 「勉強する暇はなくても、女の子と遊んでる暇はあるんやな」  一言言うと、アイツはカウンターに参考書を置く。冷えた空気を感じ取ってか、彼女が一瞬、俺の腕を引いた。でも彼はそちらを見ることもなく本を買い、他には何も言わずに、その場から立ち去る。 「なぁに~? アレ」  奴の背中を見送りながら、彼女が顔をしかめて言う。 「…………でも、ちょっとカッコいい子だね。カワイイ系っていうか」  彼女の顔が、ちょっと肉食系で、そう言う意味で興味を持っているのが伝わってくるから、ちょっと、むっとする。  女の子とエッチな事目的で遊んでいる自分が、酷くバカなことをしている気になって。 「……アイツ、俺の同室の奴。……わりぃ、俺アイツに用事あったんだわ」  そう言うと俺は、腕にかけられている指先をそっとはずす。 「呼び出しといて悪いけど、また今度」  彼女を店に置き去りにして、走って後を追う。  追って、どうすんだよ?  そう胸の内側で呟きながら。
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