第十二章

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 慌てて開くと、俺たち四人のグループメールで、『助けて。誰かが外にいるみたい』  ゆりかちゃんからの、それだけのメールで。何だか妙に冷たい汗が背中を流れる。  時計を見ると十時半を回っている。俺は慌ててコートをはおり、部屋に置いてあった靴を引っ張り出して、静かに窓を開ける。  すぅっと冷たい空気が流れてきて、ふっと気づいて机に立てかけてあった竹刀を握りしめる。そのまま、ここ一階でよかったなと思いながら、窓の外に身を躍らせた……。  多分俺が一番に学校につくんだろうな、そう思いながら、そっと、裏口の横の垣根に滑り込む。今のところは静かにしか思えない部室。  そっと近づいていくと、微かに何か物音が聞こえるような気がする。ゆっくり、ドアのノブに触れると何か違和感があって、ふぅっとため息を着いて、ゆっくりと音を立てずに回す。  ……鍵が、かかってない? ドキンと心臓が飛び跳ねる。  何でカギ閉めてないんだよ。嫌な予感がしながらも、息を詰めて、ぎゅっと竹刀を握りしめる。  音を立てずに、そっとドアを開けると、そこには、さっき、俺が押し倒しかけたその場所に、ゆりかちゃんが押し倒されて、その彼女の顔の横には、ナイフが突き立てられている。  彼女の上着は、ナイフで切り裂かれたようにボロボロにされてて、彼女の白い胸が零れ落ちそうで……。彼女はおびえた顔で自分を組み敷く男を見ている。  息を詰めたまま、彼女に視線を送ると、一瞬彼女がこちらに気づく。口元に指を一本立てて、静かにしてと合図を送ると、瞬きだけでそれに答える。 「……やだ……だから、知らないって!」  気を引くように声を上げるゆりかちゃん。 「じゃあ、答えたくなるようにしてやるよ。……ったく、手間掛けさせやがって……」 そう言って、彼女に手を上げようとするから、とっさに、その手を掴んでしまう。 「!」  男は突然現れた俺の存在に絶句して、次の瞬間、ゆりかちゃんの顔の横に刺してあったナイフを握り、俺の腹を横に薙ぎ払おうとする。とっさに竹刀を床に向けて縦に立てて、それを防ぐ。ガツっと鈍い音がして、ナイフが竹刀に食い込む。 「ゆりかちゃん、こっち」  俺はそう言いながら、ゆりかちゃんの手を引いて、背中にかばって、竹刀を持ったまま、距離を取る。  男はナイフを使い慣れているのか、俺がその体制を整える間に、竹刀からナイフを抜き去って、手元でゆらゆらと揺らめかせる。  ……確かにちょっとカッコ良さそうで、チャラそうで……。ゆりかちゃんの言ったイメージの男だけど、その瞳を見ればもっと性質悪そうな男に見える。  やばそうなことに関わりそうな、そんなタイプ……って有り金全部掛けてもいいよ。 「お前が、慶か………」  なんで俺の名前を知っているんだろう?そう思った瞬間、 「なんで、慶君の事、知っているのよっ」  ゆりかちゃんの声が飛ぶ。 「アカネだよ、アカネ。お前、友達選べよ………」  男はくつくつと嗤いながら、俺にナイフを走らせる。とっさに避けて、相手の小手を狙って、ナイフを取り落とさせようとする。だけど、ゆりかちゃんを庇っているし、部室が狭くて動きにくい。どうしようかと一瞬迷っていると、次の瞬間、ドアの開く派手な音がした。 「………!」  土方が無言で走り込んで来て、一瞬で状況を確認したんだろう、その勢いのまま突っ込み、僅かなためらいもなく持っていた長物で、呆然としていた相手の横っ面を払う。136bca44-8fa5-4a3d-98bc-cf2775b49f35  って……コイツこえぇ、木刀持ってきてるし。今の、全力で行ったよな? 新しい敵の登場に、刹那、判断の遅れた男は、横面を叩かれた勢いで吹っ飛ぶように横倒しに倒れる。 「………あ、やっちまった………」  やってから土方が、ぼそり言ってるけど、俺も一瞬不安になる。
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