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翌朝、少しだけ熱の下がったアキは、俺たちの夜の活躍なんて何一つ知らなくて、ほとんど寝てなくて朝起きられなかった俺を、呆れたように起こす。
「慶……ええ加減起きや……」
アキに、ゆらゆらとゆすぶられてようやく目が覚める。
「あれ、アキ、熱は?」
半分寝ぼけながら尋ねると、彼はふぅっといつも通り少し冷たい冷笑を浮かべる。
「んなの、とっくに下がったわ……」
そう言って肩をすくめる。けれどアキが普段通りだから、ふと昨日の事が頭をかすめて、かぁっと熱が上がる。
「……慶? どないしたん」
そんな俺を不審げな顔で見て、手を伸ばしてくる。そしてアキはそっと、額に手を乗せる。
うっわ、顔近い。アキが長い睫を揺らして、ゆっくりと瞬きをする。少し首をかしげて、手を避けて、そのまま顔を寄せた。
「………な……?」
思わず声が漏れてしまう。そのままアキは俺の額に直接額を乗せる。思いっきり至近距離で視線が絡む。
ち、近すぎ、近すぎだって……ちょっと角度変えたら……キスできてしまう。
昨日の余韻に、指先に力が入り、思わず身体が反応しそうになった。俺、昨日、お前の事、妄想で………って、頭で考えたら、気が狂いそうになる。
暴れだしたいようなむず痒い数秒が過ぎて。ゆっくりとアキが顔を起こす。
「……慶、熱あるんちゃう?」
「……へ?」
思わず間抜けな声が出る。
「俺の風邪、うつしてもうたかな……」
アキがポツリと言葉を零す。
「ま、アホやから、大した風邪にはならんやろけど」
いつも通り冷たい一言を付け加えて、でも彼の言葉で、一瞬、頭の中に昨日の光景がフラッシュバックする。
俺、風邪うつるような事……しちゃったよな。……多分一杯……。そう思いだした瞬間に頭痛がし始める。
「………った~」
思わず顔をしかめると、
「多分うつしてもうたんやわ。………ごめんやで。昨夜、色々………」
首をかしげて俺の顔を覗き込み、途中で意味ありげに言葉を止める。
「……慶に、色々……」
くすりと、アキが笑う。その笑みは気のせいか、ひどく色っぽくて。小悪魔みたいな、魅惑的な笑みで。
「……お世話してもろたからやわ……」
アキの言葉に、ゾクリ、と全身が甘く総毛立つ。アキの声音は、昨日の夜の『もっと、ほしい……』って言っていたあの蕩けるような甘い声と同じトーンで、って……昨日の事、アキ、全部覚えている?
思わずがばっと身を起こすと。朝の眩しくて清らかな光の中、ふんわりと、どこか泣きたくなるほど優しい笑みをアキが浮かべていた。
「……ほんま、おおきに」
朝日に溶けるように、柔らかく囁く。そっと一瞬、優しく俺の頬に触れて、俺を寝かしつけるように布団にそっと押しつける。
「……ほんま、慶はアホやから……」
うつむき加減に言うその台詞は、今まで聞いたより、どこかずっと甘い声みたいに思えてしまうのは、俺の頭が熱に侵されているからだろうか?
「……先生には風邪って伝えておくわ。ちゃんと寝とき……」
向こうを向いたまま、アキはそうつぶやいて、それから、静かにゆっくりと、部屋を出て行った。
俺は、スッキリと背筋の伸びた凛とした後ろ姿を見ながら、あれこれ逡巡する。
アキは昨日のことを覚えているのか、いないのか。それで覚えてたら、それをどう思っているのだろうかと、ドンドン上がる熱の中、頭がぐるぐるになりながら、馬鹿みたいに必死になって考えていた。
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