第十三章

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 寮の門をくぐったその瞬間、携帯電話がなった。一瞬アキからかと思って、電話にでる。 「あの、慶くん?」  電話の向こうから聞こえた声は、アキの継母の声で、タイミングが良くてびっくりする。 「あの、アキが急に実家に帰ったみたいなんですが、何かありましたか?」  そう尋ねると、電話の向こうでアキの継母が絶句する。 「あのね、私、今日の朝、離婚が成立したんよ」  震えるような声で彼女が答える。 「ずっと……彼が判を押してくれへんかったんやけど、今朝、九時過ぎかな、急に判を押すって言い出しはって、その代わり、押したら即、ここから出て行けって、そないに言われて……」  そして、判をもらった後、話し合いの為に戻っていた京都の家から、離婚届と協議書を持って、朝9時半頃に家を出て……今は一旦実家に戻ったところだと彼女が言う。  九時頃と言う時間がふと気になる。アキが電話を受けて、俺が出かけた時間。それからアキが実家に帰ると言い出した時間がその時間で。  なんか、胸の中に重い何かがのしかかるような気がする。嫌な予感が強くなる。なんだかわからないけど、アキが実家に帰ったのは、きっとこのことが影響している。  そして、それはきっとアキにとって良くないことのような気がしてならない。電話を切って、思わず駆け出そうとした瞬間、 「……慶?」  後ろから声を掛けられて、足を止める。 「……なんかあったのか?」  声を掛けてきたのは、部活もないくせに、学校の道場で自主練習している剣道バカの土方だ。 「……なんか、珍しくマジな顔してんな」  そう言われて、思わず絶句する。 「どっかに殴りこみ行くみてぇな顔してやがる……」 そう言うと、彼は小さくふっと笑う。 「……さあ、知らないよ」  出た言葉はそれだけだけど。土方が何故か竹刀バックを下ろして、バックの先についた青い色のお守りを外し始める。そして外し終わると、それを掌に収めてから、何も言わずに、俺に竹刀バッグを突き出した。c73d4a51-5657-4867-b64b-542e24ed6826 「……なんだよ?」 「……わかんねぇけど、殴り込み行くならソレ持っていけ」  貸してやるよ。そう言われて、なんとなくソレを受け取ってしまう。 「まあ、別の竹刀もあるから、ソレは、数日中に俺んとこに返してくれたら構わねぇから」  お前程度でも、無いよりはマシだろ? そう、なんだかちょっと上から目線で言われた。 「あ。ありがと……」  なんか勢いで思わずそう言って受け取っていた。 「……大事な物は自分の手で取り戻さねぇとな」  今の俺の状況をわかっているわけじゃないんだろうけど、なんかそんな風に言う。 「俺、なんか取り戻しに行くの?」  思わずそんなマヌケなことを聞いてみたりして、すると土方は肩をすくめて答える。 「さあ、知るかよ。──でも、なんか、そういう顔してるぜ?」  なんか土方の言葉を聞いて、そっか、俺、アキを取り戻しに行こうとしてるのかと、全く理由も何もわかってないのに、妙に納得がいく。 「……うん、ありがとう。借りて行く」  土方から預かった竹刀をバックごと軽く振ると、 「じゃあね」  最後に声を掛けて、俺は駅に向かって駆け出していった。
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