第十四章

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 歩く度、人の視線を感じる。  そりゃそうだ、明らかに普通の制服姿の俺に対して、アキは成人式に出そうな、いやそれ以上に見たからに高価な、あでやかな振袖姿をしている。  振袖姿をしているアキは、やっぱりそこら辺のアイドル顔負けに綺麗で可愛くて、多分誰が見ても、ショートカットの極上の美少女にしか見えない。  人の視線から逃れるようにして、気づけば暮れた空の下、東京行きの新幹線に二人で乗る。中途半端な時間のせいか、新幹線の中はガラガラで、とっさに少しでも目立ちにくいようにとグリーン車のチケットを取ったから、ほとんど座席の埋まっていないガラガラの車内で、少しだけゆったりと二人して座ることができた。 「……体、しんどくない?」 そう俺が尋ねると、アキが小さく顔を左右に振る。 「……ごめんな……」  結局護ってやることができなかった。そんな言葉を口の中にしまい込む。何から護ってやれなかったのか、それをアキに思い出させたくない。ただ、アキを抱きしめて、その背中を緩やかに撫ぜる。 「ごめんな……」 そう何度も呟くと、アキが微かに嗚咽を漏らす。俺の肩に顔を埋めて、少しだけ身を震わせる。細く、細く息を吐き出す。小さな嗚咽が徐々に抑えきれず、激しい物になっていく。  声だけは必死に堪えたまま、代わりに嗚咽する呼吸が乱れていく。こんな風にアキが泣いたのは、去年の夏以来かもしれない。  でも今日のアキはもっと辛そうで。なんで彼ばっかりこんな苦しくてつらい思いをするんだろうって、どうしようもなく怒りが湧いてくる。  何よりアキが可哀想で、苦しくて息が止まりそうになる。 「ごめん……」  アキを抱きしめて何度も謝る。いつからアキはこんな事で悩んできたんだろう。俺が好き勝手に、毎日楽しく友達と遊んでいる間も、ずっとその記憶が彼を苦しめていたのに違いなくて。そして、今回の事だって、俺がもう少しアキの事を気にしていたら、きっと彼の変化に気づけたはずなのに……。 「本当に、ごめん………」  その度に、アキは小さく肩に顔を押し付けたまま、首を左右に振る。 「もう、こんな苦しい思いさせないから。俺がお前を守るから。……ずっと、傍にいるから……」  自分に決意するように、何度もそう囁いて、その艶やかな髪を撫ぜる。  俺なんて馬鹿でいい加減で、なんにもできない奴だけど、アキのためだったらアキにこんな想いをさせないためだったら、何でもやれるってそんな風に思う。  だからいつもみたいに意地悪な言い方で、俺に冷たくしてくれていいから、いつもみたいに、どこか冷めてても綺麗な笑顔を、また俺に見せて欲しいって、ちっとも温まってこない冷たい背中を撫ぜて、アキの嗚咽が止まるまで、ずっと、抱きしめていた……。a76e97e4-33a1-4612-aa5d-9da6ede449f6
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