第十四章

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 俺の言葉に小さく笑い声を漏らして、アキが小さく身じろぎをする。肩に載せていた顔を俺の肩の上で、寝返りでも打つようにコチラに顔を向けて、見上げるようにして俺と視線が合った。  さっきはいつも通りのクールな声で、普段みたいに俺をからかっていたくせに、俺の首筋に額を埋めるようにした、横向きの顔は……やっぱり涙で瞳が潤んでいて。 「……だから、もう、一人でそんなもの、抱きかかえて無くていいから……」  そう俺が言うと、アキが俯き、一瞬瞳を閉じる。 「……アキ?」  そう一言声を掛ける。その瞳を縁取る睫毛がつややかで、アキは俺の目の前でゆっくりとまばたきをした。ゆるやかに瞳を開いてもう一度、じっとひたむきに俺を見つめる。  その一瞬すら、見逃したくないほどに綺麗で、滑らかで艶やかなその頬に触れる。  アキはやっぱり、女の子と思えるくらい可愛くて。他のどの女の子より魅力的で。この手の中に収まっているのが、女の子とか、男だとか。そんなのはもうどうでもよくて。それがアキだってことが何よりも大事で。 「アキ……好きだ……」  俺をおかしくさせる、闇を映した漆黒の瞳をまっすぐに見つめる。  もう何度目かすらも忘れた告白を繰り返す。アキは一瞬困ったように視線を揺らした。 「……慶は、ほんま阿呆やな……」  そう言いながら、ゆっくりと艶やかな睫毛を揺らしてまばたきをし、睫毛の縁にたまった涙を、ポロリとこぼす。  そっとその頬の涙に唇を寄せる。苦くてしょっぱいその味は、アキが今まで一杯、流してきた涙の味だ。 「阿呆でもいいよ……」  俺がそっと覗き込んだアキの瞳は、すごく優しい色合いだった。 「阿呆でも、好きな人の涙ぐらい拭えるし……」  もう一度、今度は涙で潤む目元にくちづける。 「阿呆でも、アキが好きだし。阿呆でも、アキのこと護ってやりたいし……」  囁きながら、その男子にしては紅い艶めいた唇に視線を落す。一瞬ためらってアキの瞳を見つめる。ふっと艶やかに、でもどこか優しげに笑って……アキが瞳を伏せる。 「まあ、阿呆でも……」  アキが瞳を伏せたまま、呆れたように囁く言葉が、艶めいた唇の中で小さく吐息としてもれた。 「俺も……」  小さく唇に柔らかい笑みが浮かぶ。 「……慶が……」  言葉にならず、唇が形だけで言葉を紡ぐ。我慢の効かない俺は次の瞬間、触れ合った唇でそれを感じる。微かに動く唇は……。 「……好きや……」  って囁く形を……していると、  ……俺は、そう思った。0278e33f-5310-4ec4-b5d5-295278b0adc5
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