夜光虫

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漆黒の夜の中  ひそりと輝くものがある 何も届かなかった胸の内 それはそっと現れて 私の闇を照らしていった どうしようもなく 爛れるほど切なく ずぶずぶと疼くような悲しみが渦巻いた どうしようもなく ただ どうしようもなく 息も出来ないほどの苦しみが引き裂くように取り巻いた もうこれ以上 流れることさえない涙は ザラザラとかさついて 私に白くへばりついた 剥がれないほど固くへばりついた 言葉と思考は土気色に変色し ああ もうここまでだ と諦めだけが己を締めつける 無音の闇の中 蠢くのは瘡蓋と膿 これ以上 傷つかないほど傷ついたすべての痕 目の前に広がる 黒く潜まる海を見つめて ゆっくりと歩を進めてゆく 寄せ返す波を浴びたまま この闇に溶け込んでしまいたいと思う それで何もかも解決出来るのではないかと考える 答えを探すのも面倒になった頭の奥は 頷くようにしんと黙る 何もかも消えた淵でひとり 溶けた闇が寄せ返す波の中 時間だけが寡黙に過ぎる 歩を波へと進めようとする視界に不意に訪れたのは 青く光る夜光虫 誰もいないはずの海の中 ゆらり漂う夜光虫 闇の中 静かに点る青い灯は 私のすべてをそっと撫でた やがて灯は広がりながら 私をそっと包み込んだ 涸れ果てたはずの涙が流れる なぞるように伝う温かさに胸がトクリと反応する ああ 私は生きている そう 生きているのだ、と 感覚が息を潜めた思考を動かす こんな漆黒の闇の中 かすれて荒みきったはずの景色に 微かな風が吹いてゆく 夜光虫の小さな群れは 私の闇をそっと洗っていった まだ 生きていていいのだと そっと青く密やかに囁く 闇にも光は射すのだ と 夜光虫は教えてくれた 私は涙を流しながら 夜光虫を手で掬った 手のひらが美しく青に染まる 小さな小さな灯の群れ 温かな涙は時を動かす 停止していた回路を動かしてゆく ありがとう 心に言葉が生まれ落ちると 涙は止めどなく溢れていった ありがとう ありがとう どんな闇にも光は点る 夜光虫は静かに語る 私の心を静かに照らす 青く光る希望の群れ 闇は必ず晴れてゆく 光に照らされ晴れてゆく 朝日を待つんだ 朝日を待つんだ それは必ず帰ってくるから それは必ず訪れるから
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