暗殺者

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 わざと刺客であることを匂わせ二流だと誤認させたこと、俺が妥協することを見据えて多めに距離を要求したこと。考えてみれば気付かない俺の方がどうかしていた。奴の袖から発射された小型の矢は真っ直ぐに姫の心臓を狙った。ただ当たって軌道が変わることだけを祈って剣先を伸ばす。日頃の行いに自信はなかったがその祈りは半分叶えられた。心臓を逸れた矢は姫の二の腕にかすり傷を付けた。  矢を弾いた剣を返し男を切り捨てる。トドメにもう一太刀加えて姫に駆け寄った。矢先に毒が塗られていたはずだ。剣を投げ捨て、失礼しますと断わり傷口から毒を吸い出す。冒された血が全身に回らないよう肩の所をハンカチできつく縛ると姫が顔をしかめた。そこでようやく異変に気付いた者達が駆けつけてきた。 「傷は浅いが毒が盛られているかもしれない。大至急医者に診せてくれ」  指示通り姫は医師の所に連れられ、暗殺者の遺体も運び出された。騒然としたのは一時のことで、一人残された俺はその場に座り込んだ。両手で頭を抱える。姫の安否を案じると同時に、セルゲイの信用を失い本来の目的を果たせなくなることを危惧した。  どれくらいそうしていたのか。荒々しく扉を開ける音に顔を上げると医師とその隣にセルゲイの姿があった。
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