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「この度は申し訳ありませんでした!」
俺は慌てて姿勢を正し、腹の底からの声で失態を詫びた。セルゲイが頭を垂れる俺の横を素通りし、玉座に座る気配を感じる。「面を上げよ」と無感情な声が掛けられるまで重々しい空気に押しつぶされそうだった。
「話は聞いた。失態だったな、ヨーク」
「申し訳ありません」
再び頭を垂れつつ、俺は玉座の脇に投げ捨てたままの剣を確認する。セルゲイはいつも通り鎧を纏っていたが、護衛はいない。もしもここでクビを言い渡されるならば今が彼を暗殺する最後の機会だ。俺は彼の次の言葉を待った。
「本来ならば切り捨てるのが当然だが、医者から聞く所によると姫が軽傷で済んだのはお前の応急処置の賜物らしい」
ちらりと医師の方を振り返ると白い髭を蓄えた老人は「安心せい、姫の解毒は済んだ。もっともお前さんが吸い出したおかげでほとんど残ってなかったがな」と笑った。
「また、姫を狙った暗殺者は巷では名の知れた強者だったそうだ。お前でなかったら守り切れなかっただろうというのが大半の意見だった。よって今回はお前にはお咎めなしだ。下がって良いぞ」
俺は感謝の言葉を述べ、顔を上げてセルゲイを見た。「剣を拾ってもよろしいでしょうか?」彼は今それに気付いたように玉座の脇の剣を見る。「構わん」という彼の言葉に歓喜を露わにしないよう注意を払い立ち上がる。急な事態で慌てていたからか、屋敷内で気を抜いていたからか、セルゲイは兜を着けていなかった。ここに雇われて三年間、いや、そのための鍛錬を含めれば十年間の悲願が達成される瞬間が近付いていた。
怪しまれぬようゆっくりと剣を拾う。この玉座とその周辺にはなんの仕掛けもないことは姫の座っていた数日間で確認済みだ。
「セルゲイ……」剣の柄を強く握りしめ、俺が呟いた瞬間、再び扉が荒々しく開かれた。
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