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音を立てないように開けた扉の隙間から覗くと、薄暗い部屋の中、玉座の辺りだけ煌々とランプが灯っていた。寝間着姿の姫が玉座の脇息に座り足をばたつかせている。 歩み寄る俺に気付いた姫がはっと顔を上げた。
「物音くらい立てなさいよ。びっくりするでしょ!」
理不尽な叱責に反射的に謝る。そんな俺の態度が可笑しかったのか、姫は笑いながら脇息から飛び降りた。
「なぜ呼んだか分かる?」
いえ、と即答する。あのハンカチを見つけてからずっと考えていたが明確な答えは出ないままだった。飛び跳ねるように姫が俺のそばにやって来る。
「ヨーク。あなたを私の婿にします」
姫の表情はランプの逆光でよく見えなかったが、口調から冗談で言っているのではなさそうだった。それでも俺は「本気ですか?」と聞かずにはいられなかった。
「さすがに冗談でこんなこと言わないわよ。昼間のあなたからの贈り物、確かに受け取ったから」
俺が怪訝な顔をしているのが姫からはよく見えているのだろう。「ハンカチと私の命よ」そう加えた。
「それはそういうつもりではありません。仕事としてやったことですから」
「そんなの関係ないの。ヨーク、私は前からあなたのことが好きだったの。多分お父様も知っているわ」
それでか、とセルゲイの意味深な笑みに合点がいった。この婿選び事態が姫か俺のどちらかを焚き付けるためのものだったか。しかし、
「姫……俺はあなたの婿になることはできません」
姫が一歩近寄る。ようやく見えた姫の顔は真剣だった。
「それは、お父様があなたのご両親の仇だから?」
姫の言葉に俺の思考が停止した。
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