最後の贈り物

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「どうして……」 「大丈夫よ、そのことはお父様は知らないわ」  姫が俺に背を向けて玉座に向かう。先ほどまで自身が座っていた辺りを指で撫でた。 「復讐を忘れて私と結婚して幸せに暮らすか。それとも敵討ちにこだわって日陰で生きていくのか。ヨーク、あなたはどちらを選ぶ?」 「俺は……」  ランプの火が揺らめく。それに映し出された姫の影が祈っているように見えた。 「俺はどうしてもあの男を父と呼ぶことは出来ない。だから……申し訳ありません」  そう言ったあと、俺は姫の方を見ることができなかった。沈黙の中、姫が鼻をすする音だけが聞こえる。泣いているのかもしれない。だが、それを慰めることはできなかった。 「ヨーク、この間の兎の話を覚えてる?」  長い沈黙を破ったのは姫の問いかけだった。 「はい、旅人のために焚き火に飛び込む話ですよね」 「私のお母様は私が幼い頃に病気で亡くなったわ。お爺様とお婆様も私が生まれる前に亡くなっているの。つまりお父様にとって私だけが唯一の家族なの」  姫は混乱しているのか、話のつかみ所がない。「なんの話でしょうか?」堪えきれず姫の方を見ると、彼女の手にはランプの火に照らされて怪しく光る短剣が握られていた。俺が事態を飲み込み、体が反応するよりも早く、その刃は姫の胸に深々と突き刺さった。 「!!」  俺は言葉にならない言葉を叫び、倒れ込む姫に駆け寄る。抱きかかえ、止血を試みるがワンピースの赤い染みはみるみる広がっていく。 「これが……お父様への一番の復讐になると……思わない?」 「すぐに医者を呼んできます!」  応急処置を諦め、駆け出そうとする俺の服を姫が掴む。 「受け取って……欲しいの。あなたへの……最初で最後の贈り物よ」 「なんで? なんでそんなことを!?」 「前に言ったでしょ……好きだから、じゃない?」  姫の顔に雫が落ちた。「泣いて……くれるんだ。ありが……と」姫が苦しそうに微笑む。 「最後に……お願いがあるのだけど……姫じゃなくて名前……で呼んでくれるかな?」 「死ぬな! 姫!…ローゼリア!」  彼女は目を閉じ、最期まで微笑んでいた。
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