婿選び

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 屋敷の二階にある謁見の間はその名の通り取引先や商会の従業員などセルゲイからすると「下々の者」との面会に使われる。百人ほど収容可能な広さに深紅の絨毯が敷かれ、一段高くなる部屋の奥には玉座と呼ばれる豪華な椅子が佇んでいた。今日はその玉座にはセルゲイではなく姫が座っている。よほど落ち着かないのか何度も座り直していたが、一人目の候補者が現れる時間になると凛とした態度になった。さすがに様になっている。俺は姫を真横に見ながらそう思った。  一人三十分ほどの面会を七人連続でこなした後、姫が俺の方に指で作った×のサインを出した。俺はすぐさま外の男に休憩を告げる。「十分休憩です」姫にそう言うと彼女は久しぶりに呼吸をしたかのように大きく息を吐き出した。最初の四人は腕自慢の剣士や冒険家が続き、玉座の傍らには彼らが仕留めた怪物の首が並べられた。次からは貴族が続き、豪華な宝石が並んだ。彼らはその手土産を姫に渡し、自らの武勇伝や自慢話を口にする。そのどれもが絶望的につまらなかった。 「ヨーク。この気持ち悪いの片付けて」姫が顔をしかめながら怪物の首を指差す。「それと今後なにかの首とか死体とか持ってきた人には帰ってもらって」  俺は両脇に首を抱えると外の男に渡し、姫からの伝言を伝えた。その夜聞いた話では、それで半分近くの候補者が肩を落として屋敷をあとにしたらしい。  八人目は地方の貴族だった。彼もこれまで同様自慢話に終始し、姫はよほど退屈なのかあくびをかみ殺すような素振りを見せることもあった。三十分の面会が終わり、姫がごめんなさいと頭を下げるとその貴族は態度を豹変させた。 「ふざけるなよ! わざわざ来てやったのに何様のつもりだ! お前も父親と同じで腐ってやがるな!」  俺は喚き散らす男に素早く近付くとその顔面に拳をめり込ませた。静かになった男の身柄を外に放り出すと「失礼しました」と姫に頭を下げる。「ご気分を悪くされましたか?」 「大丈夫よ。慣れてるから。でも、正否は後日伝えるようにしましょう」 「少し休憩なさいますか?」姫は首を振る。「さっさと終わらせましょう」憂いを帯びた姫の言葉に俺は黙って頷いた。
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