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その日予定していた人数をこなすとすっかりと日が落ちていた。俺が終了を告げると姫は立ち上がり大きく伸びをする。
「気になる方はいらっしゃいましたか?」
「それ本気で聞いてるの?」
怒気を含んだ姫の問いに俺は苦笑するしかなかった。
「お腹が空いたわ。食事にします。ヨークも一緒にどう?」
まさか本気で言っているわけでもあるまい。俺が断ると「そう、じゃあ今日はもう下がっていいわよ」と言い捨てて部屋を後にした。
黙っていれば絶世の美女。それが俺の姫に対する印象だった。良く言えば奔放、悪く言えばわがままな性格だがそれを知るのは俺を含む数名の側近だけだ。幼い頃からそうしつけられたからか気を許した人間以外には実に気品ある振る舞いをする。屋敷の外の者、いや屋敷内でも末端の者などからすれば本当に王女のように見えているかもしれない。その反動からか近しい人間には惜しげもなく素の姿を見せる。俺の三年間はそのまま姫に振り回されっぱなしの三年間だった。
自室に戻る前にセルゲイの部屋の扉を叩いた。今日の成果を報告するためだったが、「姫のお眼鏡にかなう者はいたか?」という問いに首を振ると「まあそうだろうな」と意味ありげな笑みを浮かべただけでセルゲイは扉を閉めた。
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