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二回目の婿選びは三日後に行われ、その日も朝から日が暮れるまで姫は二十人以上との面会をした。広く公募すると語ったセルゲイの言葉通り半分は庶民、中には貧しい農民も含まれていた。彼らは姫への贈り物として特技の歌や踊りを披露したり、技術と根気を要する手作りの工芸品を用意していた。どれも心のこもったもののようで、俺から見れば財にものを言わせた貴族の贈り物よりもよっぽど好感の持てるものだったのだが、そのどれもが姫の心を動かすには足らなかったようだ。
今日の日程の終了を告げると姫は疲労の色を隠そうともせず天井を仰いだ。
「姫はどのような方をお望みなのですか?」
俺が尋ねると姫はその姿勢のまま目だけを動かし俺を見た。小さく溜め息をつく。
「ヨーク、あなた旅人と兎の話を知ってる?」
俺は首を傾げる。
「ある旅人が森で迷って行き倒れになるの。それを見つけた森の動物達がその旅人を助けようとする話よ。猿は木に登って木の実を採ってくるの。熊は川で魚を捕ってきた。でも兎はなにも用意することが出来なくて、旅人の目の前で焚き火に身を投げたの。『どうぞ自分を食べてください』ってね」
「それくらいのことをしろと?」
「例えばの話よ。それくらいの情熱を見せて欲しいってこと」
「それは募集に追記した方がよろしいですか?」
「いやよ、目の前で自傷されたらそれこそ気が滅入るわ」
姫は勢いを付けて飛び降りるように玉座から立った。ドレスの裾が捲れるが気にした様子もない。
「ちょっとお待ちください」
立ち去ろうとする姫を呼び止めた。「なに?」と、姫が素早く振り返る。
「先ほどの話なのですが、なにか大事な要素が抜けてはいませんか? 俺には兎が見ず知らずの旅人のために自らを犠牲にするとは思えません」
そんなことか、と言わんばかりに姫の表情が曇る。指をあごに当ててしばらく考えていたが、
「好きだったんじゃない? 旅人のことが。一目惚れとか」
微笑みながらそう言うと少し軽くなった足取りで今度こそ退室していった。
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