わたしのせんたく

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   ここから華ちゃんの家まで、もう少しだった。  月の下、世界は広がっていた。なんてことのないいつもの光景と、そして弾む息に、なんだか胸が踊った。いや、踊っている場合じゃない。わたしはちゃんとしなくちゃならない。なのにやっぱり久々の世界は楽しくて、当たり前で、当たり前じゃないのだと思い知らされた。  わたしは必死に先を行くシンちゃんの後を追った。彼はわたしを気遣うように振り返り、振り返り、でもやっぱりウキウキが止まらないといったように走っていく。  わたしも懸命に走りながら、その後ろ姿に声をかけた。 「……ごめんね、こんなことに付き合わせて」 「いいんだよ、僕はふりーたーなんだから」  なんだ、やっぱりフリーターなんじゃん、とわたしは笑う。そう油断した瞬間、わたしはつまずき倒れた。  久々に走ったので足がもつれたのだ。  握っていたお年玉がひらりとアスファルトを滑る。  梅の花が描かれた、小さなポチ袋。北風に乗って飛んでいってしまう前にわたしは慌ててそれを拾った。  シンちゃんが踵を返してわたしの元へ駆け寄ってくる。 「ごめんね、興奮して急いじゃった。大丈夫?」 「……うん」  わたしはシンちゃんに手を握られ起き上がった。  手のひらのポチ袋を見つめる。一年の始まりに贈られるそれは、きっときっと、たくさんの想いが込められたお年玉。それを見ているとなんだかつらくて、涙が出そうになった。  初詣の帰り際に言われた言葉を思い出す。 〝ねえ、しおりちゃん。私もしかしたら今朝お婆ちゃんにもらったお年玉落としてきちゃったかも。もう一回神社を見て回ってくるから、先帰っててくれる?〟  ……ごめんなさい。  
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