ご褒美がほしい冬

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「……一ノ瀬、帰ろうぜ」  見つめ合う一ノ瀬と宮田を交互に見ていた木内は、やがてそう言って立ち上がった。 「先生、明日から学校来るんすよね。じゃあ、部活にも顔出してくださいよ。お大事に」 「おう、ありがとな。じゃ、気をつけて帰れよ」  宮田は一ノ瀬を見ない。それがまた一ノ瀬には辛かった。言うべき言葉が何も見つからないまま、木内に連れられるようにして一ノ瀬は宮田の部屋を後にした。 「しょうがねえよ。最初から、無理な相手だったじゃん」  別れ際、木内が漏らした一言が、一ノ瀬の胸に突き刺さった。 ――そんな事は分かってる。無理だってことくらい、最初っから。  大きすぎる障害。嫌われはしなくても、好きになってもらうことはない。それでいい。自分が好きでいられればいい。そう思っていたのに。 『期待させないようにしないとな』  宮田の声が頭に響く。 ――やっぱり、好きでいちゃいけないのかもしれない。  家に帰ってからも、翌日の授業中も、一ノ瀬は頭の中で宮田の声を繰り返した。  生徒だから。期待させないようにしないと。生徒だから……。  じゃあ、俺が生徒じゃなかったらどうなんだ。どうせあと二年もすれば卒業だ。  いや違う。そうじゃない。     
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