454人が本棚に入れています
本棚に追加
「……一ノ瀬、帰ろうぜ」
見つめ合う一ノ瀬と宮田を交互に見ていた木内は、やがてそう言って立ち上がった。
「先生、明日から学校来るんすよね。じゃあ、部活にも顔出してくださいよ。お大事に」
「おう、ありがとな。じゃ、気をつけて帰れよ」
宮田は一ノ瀬を見ない。それがまた一ノ瀬には辛かった。言うべき言葉が何も見つからないまま、木内に連れられるようにして一ノ瀬は宮田の部屋を後にした。
「しょうがねえよ。最初から、無理な相手だったじゃん」
別れ際、木内が漏らした一言が、一ノ瀬の胸に突き刺さった。
――そんな事は分かってる。無理だってことくらい、最初っから。
大きすぎる障害。嫌われはしなくても、好きになってもらうことはない。それでいい。自分が好きでいられればいい。そう思っていたのに。
『期待させないようにしないとな』
宮田の声が頭に響く。
――やっぱり、好きでいちゃいけないのかもしれない。
家に帰ってからも、翌日の授業中も、一ノ瀬は頭の中で宮田の声を繰り返した。
生徒だから。期待させないようにしないと。生徒だから……。
じゃあ、俺が生徒じゃなかったらどうなんだ。どうせあと二年もすれば卒業だ。
いや違う。そうじゃない。
最初のコメントを投稿しよう!