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二度目の春
その年の冬は、いつもよりも強い寒波が列島を包み、珍しいと言われるほどの積雪があった。校舎から見える景色も、灰色と白に支配された世界。一ノ瀬は授業にも身が入らず、再び赤点ぎりぎりの成績を取った。
――そして春。
寒かった冬の割には春の到来はいつもと変わらぬ調子で、桜の似合う入学式だった。一ノ瀬は二年に上がった。一年前に宮田が赴任してきたんだったと、一ノ瀬は懐かしむように空を見上げる。あの時も確か朝練の後で……。
「うぉい! 立ち止まんなよ!」
後ろから小突かれる。
「っせーな」
振り向くと、木内が立っていた。
「てめえ、でかすぎて邪魔なんだよ」
「……去年から変わってねえな。俺ら」
「あん?」
木内は覚えていないようだが、このやり取りは一年前と同じものだ。なんで覚えているんだろう。こんな些細な事を。でも、きっとずっと忘れないかもしれない。たいしたことのない、小さな出来事が積み重なって、今の俺の記憶を作っているんだ。
「変な顔しやがって。入学式に遅れるぞ。ダッシュ!」
「いいよ、俺」
「は?」
「サボる。お前、行っとけよ」
「ああ……まあ、俺はいいけどよ。お前、ホントにサボるのか?」
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