二度目の春

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 無言でうなずく一ノ瀬を見て、木内は小さく肩をすくめると、身をひるがえして走り出した。  最近の一ノ瀬はいつもこんな感じだ。やる気がないというか、目がうつろというか。バスケをしていても、友達らと笑っていても、どこか遠くを見ているようで、時折ふっと表情をなくす。恐らく、宮田との事で悩んでいるのだろう、と、木内は見当がついていた。けれど自分に出来ることはない。それも、分かっていた。何度か吉沢と相談したこともあるが、二人の結論はいつも同じだった。一ノ瀬の心は一ノ瀬が決める。他の者に手出しは出来ない。  何とか一ノ瀬の気持ちを盛り上げようと、イベントを企画してみたこともあるが、一ノ瀬は少し寂しげな笑顔で礼を言うものの、以前のような快活さが戻ってくることはなかった。明るく、人の目を引くような華やかさは陰りを見せ、逆に大人びた落着きが彼を覆っていた。それは女子生徒たちにとって新たな魅力として映ったようで、一ノ瀬の人気はさらに高まっていたが、本人は彼らの好意に対して冷たくあしらう以外の対応は取らなかった。     
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