二度目の春

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 既に人気がない渡り廊下を、一ノ瀬はポケットに手を突っ込んで歩いていた。向こうの校舎を抜け、校庭を渡ると図書館がある。今なら誰もいないだろう。静かな場所で、一人でいたい。図書館の入口は半地下になっていて、階段を数段下りる。レンガ作りの階段を下り、扉に手をかけたところで、背後から声がかかった。 「おい、こんな時間に何してる」  心臓が跳ね上がる。頭がかっと熱くなる。だが自身の変化を微塵も見せず、一ノ瀬は顔だけ振り返った。 「ちょっと図書館に」 「今は入学式の時間だろ。講堂はあっちだ」  親指で示す宮田を前髪の下から見上げ、一ノ瀬は首を振った。 「見逃してくださいよ。別に俺がいなくても問題ないでしょ」 「そういうことじゃない。きちんと出席しろ」  数秒そのまま動かなかった一ノ瀬だが、ふっと宮田から目をそらし、図書館の扉を押し開けた。 「おい、一ノ瀬」  宮田の声にも動きを止めず、そのまま図書館に入る。宮田はいらついた。最近の一ノ瀬はこうした行動が多い。部活の時も、部員との交流が減り、一人でいることが多かった。技術は上がっているが、以前のような熱さはない。叱れば、謝る。けれど、変化は見せない。 ――俺のせいか。俺のせいなんだろう? そうなんだよな。 「分かってるさ」  そう呟いたが、どうすればいいかは分からない。     
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