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高校生の恋など、気の迷いのようなものだ。まだ若い。子供だ。本気の恋とは違う。そう思う。自分の経験と照らし合わせれば、本当に「あの子」が好きだったのかどうか、判然としない。多分、恋をしたかった、というだけ。カノジョが欲しかっただけ。大学が違って、しばらくしたら自然消滅した。寂しいとも思ったが、また別の子を好きになった。それも、本当に好きだったのか分からない。周りにはやし立てられて、付き合ったら気が合うからってそのまま。けど、相手が浮気して、そんなもんかと思った。その時も、友達と散々飲んで喚いて泣いて、しばらくしたら忘れた。
――そんなもんだ。
本当の「好き」なんて、宮田にもまだ分からない。十六歳の一ノ瀬なんかに分かってたまるか。それも、男相手だなんて、何か変な思いこみに決まってる。バスケ選手としての憧れがすり替わっているだけだ。
――ちゃんと言ってやらなきゃ。
我ながら教師らしいと思いながらも、自分は本当にそんな大人なのかと疑問に思う。だが、自信はなくとも自分は教育者だ。指導者だ。一ノ瀬がこのまま道を踏み外していってしまったら自分のせいだ。――追いかけよう。
司書の先生が図書館のカウンターに座っている。新刊本のチェックをしているひっつめ髪の彼女に、一ノ瀬がどちらへ行ったか尋ねた。
「入学式に行かなくていいのかって言ったんですけどねえ。どうしても今、調べないといけないって言うから……」
教えられた棚は分厚い辞書や事典がずらりと並ぶ場所で、日当たりも悪い図書館の一番奥だった。一列一列を覗きながらゆっくりと歩いていく。
「なんで来るんすか」
奥まった一角、見つけた一ノ瀬は本を探している様子もなく、追いかけてきた宮田を見て不満そうに言った。
「なんでって……当たり前だろう」
「ほっといてください」
「俺は教師だぞ」
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