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一ノ瀬はふいっと顔をそらす。春休み中の部活のときにも何度か感じたが、最近、一ノ瀬はこうして宮田を避けようとする。好きだ、と言ってまっすぐに自分を見ていた目とは違う。言いたいことはあるが我慢している。そしてそれを自分でも考えないようにして逃げている。そんな風に見えた。それがイラつくのだと、宮田はようやく理解した。
「別にってなんだ。理由なくサボるなよ。調べ物があるようにも思えない。第一、今じゃなくちゃいけない理由もない」
「何でもかんでも理由があるってもんじゃないでしょ。なんとなく、行きたくなかったんですよ。それだけのことっす。担任でもないんだし、見なかったことにすればいいでしょう。先生に迷惑かかんないんだし、ほっといてください」
「そういうわけにいくか」
「先生には関係ない!」
吐き捨てた一ノ瀬の声は、彼自身が思うより大きかった。口をつぐむと、静かな図書館の空気が前よりさらに静まったように思える。宮田は二の句が継げずに黙り込んだ。
本棚と本棚に挟まれた薄暗い通路に、重苦しい沈黙が淀む。
「……くそっ」
舌打ちをする一ノ瀬。宮田は何と言えばいいか分からず、立ち尽くしていた。説得できるような雰囲気ではない。一ノ瀬がこんな風に激高するとは思わなかった。こんなことなら追いかけなければ良かったのだろうか。一ノ瀬の言うとおり、放っておいてやれば良かったのだろうか。この状況から、気まずさを払拭して立ち去るにはどうすればいいのだろう。宮田は逡巡していた。
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