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「神を恐れるのではなく、恐怖こそが神……か。言い得て妙だ。知らぬからこそ怖い。未知を既知に、神秘を暴き周知の事実とする。人は神を、引き摺り落とした。」
『かか、愉快よの。』
「かつて僕が居た世界で、神は最早想像の産物だった。誰一人として、その実在を証明できない。」
『かかか。神秘が暴かれ薄れた世故のことよの。』
「人は愚かだ。己の身の程を弁えず、踏み入るべきではない場所にずかずかと入り込む。」
『じゃが、儂が思うにそれこそが人間じゃ。未知を恐れ、暴き立て、既知のものとすることで仮初めの安寧を得る。』
「だからこそ私は……いや、僕はかつて死を振り撒いた。それがどうだ、今や僕は神の奴隷、成したくもない救済を成せと縛られる始末。」
『然もありなん。』
「そうだ……ひとつ思い付いたぞ。幻想再現……『悲嘆の怠惰』。」
腕を模した奇妙な剣を、虚空から取り出す少女。
『その奇妙な剣で、何をする気じゃ?』
「核まで地面を削り取る。超過起動……掻き毟れ、『悲嘆の怠惰』。」
黒と紫の手を模した波動が蠢く。轟音を響かせ、地面が削れて消えていく。
気色ばんで口の端を少女が吊り上げた次の瞬間、刀身に不規則に火花が走る。
「うん?……クソが。」
刀身に亀裂が走り、亀裂が複雑化して粉々に砕け散った。
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