1章 人間失格、異世界に墜ちる

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「あやつらとかかわり合いになり続ける理由もなし、とっととずらかるに限る。」 虚空を蹴り、宙を跳ね回る小柄な少女。 「しかし、さて……これからどうしたものか、っ!?」 突如、下から飛来した矢が右足を貫く。 「くっ……どこから…!?」 射抜かれた弾みでバランスを崩し、きりもみしながら落下する。数回回転した時点で虚空を掴み、空中にぶら下がるように静止した。 「何なんだ?……なんにせよ、きれいに貫通してくれたお陰で抜く手間がはぶけた。」 瞬く間に肉が盛り上がり皮が張る。傷が塞がると同時に虚空を蹴って、近くの建物の屋根に飛び乗る。 「追撃は無し……一体全体何者だ?(やつがれ)を狙った意図は…?いや、考えるだけ無駄だ。そんなことよりこれからどうするか……!?」 横合いから飛んできた矢が、右上腕に突き刺さる。 「っ……!?あり得ん、矢が曲がって飛んでくるだと?」 刺さった矢を引き抜いて投げ捨てる。直後、視界が揺れて、立っていられなくなりその場に倒れこむ。 「痺れ薬か……!だが、僕にこんなものをいくら投じたところで無駄だ!」 傷が消えて、何事もなかったかのように立ち上がる。 「何処の誰か等どうでもいい…一度ならず二度までも……ただでは済まさん。」 屋根が大きく凹むほど強く蹴り、宙に舞い上がる。 連続して虚空を蹴って、さらに高度を上げる。 「来た!世界(THE・WORLD)!時よ止まれ!」 世界が、停止する。飛んできた矢を見て軌道を逆算し、頭を下にして落下する。 「下手人は……見つけた。」 フード付きのマントを纏うクロスボウを持った何者かに歩み寄る。 「さて……。」 腰に提げていた矢筒から一本矢を抜き取り、何者かのクロスボウに装填する。手首を掴んで矢尻が何者かの喉元に向くようにクロスボウを動かし、引き金を引かせた。 「そして時は、動き出す。」 息苦しくなるギリギリまで上昇して、時間停止を解除した。 「どうだ……仕留めたか?」 何者かが隠れていた路地に降り立つ。 喉元に深々と矢が刺さった状態で、何者かが倒れていた。 「た…すけ……」 「驚いたな、まだ喋れるのか?すぐ楽に……ちっ、厄介千万。止めを刺すようなことはできないか。ぐっ……重っ……!駄目か、持ち上げられん。」 矢を引き抜こうと掴んだ手はぴくりとも動かず、抱え上げようにも持ち上げることすら出来ない。 「仕方ない……夢想家。」 一本の長いロープを想像して実体化させる。 「+…理想を現実に変える能力!」 縛ったものの重さを失くし、決して切れない理想のロープに作り替える。 「どうも現状、直接殺す手段は取れないようなのでな…このようなまどろっこしい手を使うしかないようだ。」 何者かに器用にロープを絡め、自らの体に縛り付け固定する。 「よっ、と……うむ、想定した通り。」 地を蹴り、虚空にその身を踊らせる。繰り返し大気を蹴り、更に高さを増していく。 町が雲に隠れ、見えなくなる高さまで昇ったところで、ようやく上昇を止めた。 「ふふ……一つ、自由落下(フリーフォール)と洒落こむか。」 履いていた黒いブーツが消え、素足に戻る。その状態でなお、少女は虚空を踏みしめて立っている。 「here we go!」 物凄く自然な動作で重心を後ろに傾け、背中から倒れる。そのまま、支えを失ったかのように落下しはじめた。 「……ああ、森の中で密かに検証していたときに試していなかったことがあった!ついでだ、今検証しよう。」 右手で触れて、何者かを固定していた縄を消し去る。 そのまま何者かの背後に回り込むように移動して、何者かを足場に自らの落下を早めた。 「恐らく無駄だろうが。高所からの落下の衝撃は僕を殺しうるものかな?」
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