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 帰りの電車の中は混んでいて、二人で向かい合って立っていたが、時折目が合うと拓海が真剣な眼差しを向けるから焦る。 何かを語っているんだろうけど、オレはじっと凝視出来なくて、目が泳いでしまうんだ。一体、何を言いたい? それに、こんな人混みの中でオレをじっと見るなよ。隣に立つ女の子が、拓海を気にしている。オレにはなんとなく感じるんだ、そういう熱ってピンと来るもので、オレもたまにだけど’こいつらデキてるな’って気づく時がある。  本人たちは隠していても、熱い眼差しを向けていると’好き’って感情がだだ洩れで、周りには分かるんだ。 だから、オレはわざと拓海から目を逸らす。 .........別に焦らしているつもりは無いんだけど。 ........つもりは無かったのに、アパートのドアを開けるなり拓海がオレを抱きしめてきた。 「ちょ、.......」 言葉を出す間もなく唇を塞がれて、鼻息が洩れるとやけに興奮して、オレも拓海の首に手を回した。少しの距離も置きたくない程密着すれば、舌を絡めて仄暗い玄関先で求め合う。 上司に出会うからと、ボタンダウンのコットンシャツを選んだが、拓海がオレのシャツに手をかけて、ひとつずつボタンを外していくのがまどろっこしくて.......。 キスをしながら、オレも下から自分で外しにかかった。 すぐに、拓海も着ていたポロシャツを脱ぎ捨てれば、肌と肌がしっとりと重なり合う。 「.......た、くみ、..........ベッド、行こ......」 オレが少し離れて言うが、 「ここでいい。............ここで、アツシを抱きたい。」 そう言ってオレの腕を引くと、頬に手をやり唇を奪う。
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