小さな勇気を持つ者、それを嘲笑う者

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「お前、また一人なのか?」  声に反応して顔を上げると、一人の男子生徒が私を見下ろしていた。生温い春風が私と彼の髪を揺らして、視線を合わせないように邪魔をする。  手で払い退けると、切れ長の黒い瞳が私を見つめていた。昔から変わらない――  ウソを見透かす目。  中里(なかさと)薫は、幼馴染で今まで同じ学校だった。高校まで一緒になるとは思ってなくて、もうこれは腐れ縁だと思ってる。  目つきが悪い、と高校から同じになった人は愚痴を零すけど、私はそうは思わない。一五年も見てきたってこともあるせいか、慣れてしまった。 「入学して何日経ったんだ?」  溜め息を吐き、私が背中を預けている桜の木の反対側に移動する。 「同じ日に入学したんだからわかってるくせに」 「あ、バレた?」  意地悪く笑い、腰を下ろす。脇に抱えていたノートパソコンを開き、そのままカタカタとキーボードの音を小気味よく鳴らし始めた。  私は横目で作業を見つめて、抱えていた脚を胸に引き寄せる。膝に顎をのせて、溜め息を吐いた。  キーボードの音が消えた。薫が手を止めたんだってわかる。 「薫だって一人じゃない」 「俺はいいんだよ、好きで一人だから」
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