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「今日はラシンじゃなく、違う子を連れてるわね羨ましい……」
イナリを笑みで見ているが、昨日の山金犬よりずっと小さいのに、微妙に距離を開けているのが気になる。
「あれ、ココちゃんが後ずさりしてる?」
ウチの王子を一口で飲み込みそうな大きさなのに、向こうで遊びたいと言わんばかりに見えてしまう。
「ココちゃん、ちょっと怖がってるみたい、あっちで遊んできていいわよ」
腕に抱えているのはチワワの大きさのイナリと、トイプードルとチワワのミックス犬なのに、昨日よりビビられてるのが分からない。
「違うのよ、すっごく可愛いんだけど……なんか凄いオーラを感じて近づけないっていうかその子……」
「クゥ……クルクルクル……」
ハッとして腕の中を見ると、目をギラつかせたイナリがココちゃんの後ろ姿を見ていたが、放っておくと飛び出してしまいそうだ。
クルクルと言っているが、敵を見た時の感じとは少し違っていて、例えるなら兎の世界のペットを見つめていた時に似てる気がする。
あの時はハンターの眼だったが、今は『お遊戯の眼』というか、遊んでやるからかかってこいと言っている雰囲気だ。
「この子ちょっとワンパクなんです、ほらイナリ、スルメあげるからいい子にしてね」
「イナリって……スルメ食べるの?」
山金犬が食べるのかという顔は一目瞭然だが、引きつった笑いを見せつつ、シレッと王子にリードをつけた。
昨日の山金犬よりずっと小さいイナリが、こうなるとは思わなかったので、やはり木村さんのいう事は正しいと考え直した。
「又遊びに来て、百合も公園デビューしたんだし、今は……純粋にペットが好きな人の集まりだもん」
あの女性達がいない事に気づいているだろうが、ウインクされた時点で、この人はトップと何らかの関係があるのかもと思えた。
「ウチのお店にも遊びに来て!連絡先渡しておくわね」
強引に名刺を渡されたが、また知り合いが出来たのが密かに嬉しくて思わず笑顔になる。
公園の桜の木の蕾を見つめながら、帰ったら桜餅を食べて爆眠しようと決め、塵里ともお別れをし扉を潜り抜けた。 (完)
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